ヴァーチューズ・プロジェクト20周年記念国際会議
  • 期間:2008年3月26日~4月3日
  • カナダ・ビクトリア

カナダのビクトリアにてヴァーチューズ・プロジェクト20周年を記念して開催された国際会議。カナダ、アメリカ、オランダ、フランス、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、サイパン・・・12ヶ国から100人を超える参加者が交流しました。

  • カナダ報告1

学校教育関係者、カウンセラー、企業の人材育成担当者、大学等の研究者、メディア関係者、芸術家、ヒーリングを仕事とする人、その他、実に様々な分野の専門家が交流しました。

会議は、毎朝のセレモニー、各国の取組み紹介、テーマごとの分科会、ワークショップ、数々の食事会など朝から夜遅くまで、情熱と喜び、そして体力と集中力にふさわしい忍耐の美徳あふれる時間でした。

創設者のLinda Kavelin Popovが、最初にお話してくださった、会議の参加にあたってのメッセージは、このようなものでした。

  • 自分のスピリットを尊重しましょう。
  • 自分の必要なものを見つけましょう。
  • 信頼にもとづき、相手とシェアをしましょう。
  • シェアしたことを自分の心に秘めましょう。
  • 助けが必要なときは、遠慮せず申し出ましょう。
  • 時間の流れを守り、全体の動きを尊重しましょう。

参加のルールとして、感動とともにしみこんできました。

写真は、最後の朝のセレモニーのひととき。輪の中心にいる女性たちが、怒り、失意、喜びなどをハーモニーで表現しています。

  • カナダ報告2

各国からの実践事例を少しずつご紹介していきたいと思います。

アメリカのD.F.氏は、教師です。

ヴァーチューズに出会う前は、学校をよくするための道具がなくて困っていました。そして、ヴァーチューズに出会い、まず、自分の家庭で実践してみました。たちまち変化が表れました。ある高校で、2人の男子学生が1人の女子学生を27回刺して殺した事件が起きた後、ヴァーチューズプロジェクトの創始者であるリンダさんとダンさんが出向き、生徒たちにヴァーチューズの5つの戦略を行いました。その結果、亡くなった女子生徒のそのおばあちゃんは、「孫が殺されたのは本当に悲劇だけれど、そのためにみんなの精神を高くすることができた」と話されたそうです。

ニュージーランドのS.R.氏は、精神医学者です。

いつも、臨床現場において、医者として、まず患者のスピリットを尊重することから始めます。まさに、スピリチュアルな同伴です。スピリットの恩寵に包まれていることを確認した上で、患者の物語を聞きます。西洋医学はまず病気とみなし、薬を出します。しかし、先に患者の物語をすべて聞くのです。人間は本来十全な存在であるのに、何かが欠けてしまった状態があります。その何かがヴァーチューなので、それを見つけます。絶対な存在として医者がいるのではなく、一緒に物語を考えるためにいます。

そして、質問するそうです。「あなたは、いろいろな問題があるのに、どうして生き残れたのですか?」と。困難な中にあっても、今日まで生きてくることができたのは、そこに、忍耐、辛抱強さ、勇気、決意、真摯、他にも、人それぞれいろいろな美徳が存在していたからこそ。そのことに気づき、自分を認め、大切にできるようになることで、生きる力が湧いてきます。

  • カナダ報告3

分科会の様子です。

今日は、創設者のLinda Kavelin Popovがリーダーを努めてくださった分科会のことをご紹介します。テーマは、「スピリットの尊重」です。

スピリットという言葉は、流行語になっていますが、何かの宗教?特殊な精神世界?マインドコントロール?など誤解を招きやすいようです。

さて、リンダさんは、政府の要人と会うときも、ヴァーチューズピックから始めます。ノーと言う人はいないそうです。想像すると、ワクワクします。政府の要人がどんな表情でカードピックをするでしょう!

リンダさんは、ヴァーチューズ・プロジェクトを一般社会に広げようとするとき、宗教ではなく、その本質を広げようとしているかと絶えず自問しているそうです。

ヴァーチューズ・プロジェクトは、特定の宗教を実践するものではありません。世界の様々な文化や宗教が共有しているシンプルな叡智を整理したものです。

ヴァーチューズ・プロジェクト日本代表の大内博先生は、「元気」という言葉の語源は、元=original 気=energy で、元気とは、つまり original energy です、と語っておられます。スピリットを表す、とてもいい表現だと思います。

「元気?」と互いに声を掛け合うのは、とてもすてきな挨拶です。互いが、自分らしくいるかを確認しあう、ということではないでしょうか。

私は、「スピリットの尊重」を感じてもらうために、これまで、地域福祉、男女共同参画など、いろいろなワークショップのアイスブレイクで、ブラインドウォークを取り入れてきました。二人ペアになって、前の人が目を閉じて、音楽にあわせて歩きます。後ろの人は、静かに寄り添うだけ。相手の自由なあり方をサポートします。

相手の存在そのものの尊重、思いやり、互いの信頼などを体感できます。

  • カナダ報告4

アートセラピーの分科会をご紹介します。

オーストラリアから参加したアーティストが、ファシリテーターをされました。絵を描くことを通して、どのようなセラピーになっていくのか、ご自身の体験を語って下さった後、さっそくワークに入りました。その情熱的な説明に、圧倒されました。

まず、目を閉じて音楽を聴き、スピリットに寄り添えるよう、自分と向き合いました。そして、二人ペアになり、自分の中にある問題を語りました。それをもとに、絵画をスタートさせるのです。

さあ、いよいよスタートです。それぞれにあふれてくるものがあるようで、どんどん描いていました。しかし、私はその感覚がなかなかつかめず、少し焦ってきました。二人ペアの話も、時間が足りず、途中までしか話せていませんでした。

しかし、とにかくやってみようと思い、とりあえず途中まで話したことを色と形に落としていきました。最初は、ただ形を描いているだけのような気がしていました。けれど、不思議です。描いていくうちに、どんどん想いがあふれてきました。辛く悲しい問題からスタートしたはずなのに、それらに対して、愛があふれてきて、それがまた形になってくるのです。そして、どんどんと手が動いていきます。自分でもびっくりでした。描いていて、心が満たされていくのが自分でもわかりました。

心の中にある暗い問題を題材に描いていったはずなのに、なぜ、だんだんとポジティブな気持ちになっていけたのか・・・帰国してから、知人にこの話をしたところ、「暗い色ばかりだと、光とか明るい色が欲しくなるんですね。人間の持ってる回復力みたいなものが知らないうちに働いていることに気がつきます」と語って下さいました。これはまさに、本来持っている「自然治癒力」なのだろうと思います。この自然治癒力を常に自覚していられたら、自分の生命力への「自信」と「信頼」を忘れずにいられるでしょう。

昨年3月に舞踊家佐藤道代さんをお招きして取り組んだダンスセラピー公演のときにも感じました。悲しみ、怒り、落胆、いろいろな感情をとじこめず、表に出していくと、それを乗り越えていく力が湧いてくる。そこに、愛や喜び、感動があふれてくる。

ヴァーチューズ・プロジェクトは、美しい言葉を使うための短絡的な手法ではありません。人間生きていれば、光もあり闇もある。そんな闇の中をくぐりぬけ、希望を見出していくために、勇気、謙虚、忍耐、辛抱強さ、情熱、様々な美徳が力を発揮していく。

このアートセラピーのワークショップは、もともと一日かけて行うものでしたが、このときは2時間に短縮して体験させていただきました。いつもは、ヴァーチューと重ね合わせながらワークを進行されるようです。

3枚目の写真は、作品をひとりひとり発表しているところです。

簡単なコメントの後、みんなで、いろんな意見をシェアします。ファシリテーターが作品を縦にしたり横にしたり、4回向きを変える度に、違った形やメッセージが浮かび上がってくるので、びっくりです。私の作品も、自分が思ってもいなかったことをいろいろ見つけてもらい、しみじみと感動。シェアリングの素晴らしさを改めて実感しました。

  • カナダ報告5

アジア地域の交流についてご紹介したいと思います。

この写真は、アジアからの参加者が集まってミーティングをした時のものです。

韓国から参加していたのは、マスターファシリテーターの3名。韓国では、NGOを作って、ヴァーチューズ・プロジェクトに取り組んでいるそうです。とても熱心で積極的なBさんは、想いあふれる眼差しで見つめ、語りかけてくれました。

韓国では、ヴァーチューズタクシーというものがあるそうです!みな大変驚き、感嘆しました。1台ではありません。タクシー会社あげて取り組んでいるようです。

タクシーに、ヴァーチューズカードが置いてあり、乗るとカードを引かせてくれます。そして、カードを読んで考えたことなど、運転手さんといろんな話ができるのです。

ある時、離婚訴訟を申し込むために裁判所に向かおうとしていた女性がタクシーに乗りました。そこで彼女が引いたカードは、「忍耐」だったそうです。忍耐のカードに書かれていた深い意味を知り、離婚を思いとどまり、自宅に戻ったそうです。

タクシー会社でのこの取り組みを実現した彼女たちの努力と発想力には、本当に頭が下がりました。

中国からの発表は、イラン人の女性によるものでした。中国の都市開発で利益を生み出した外資系企業が社会貢献するために財団をつくり、その資金で活動しているそうです。

中国は今、経済が発展の一途を辿っており、メンタルな部分が後回しになっているとのこと。だからこそ、社会荒廃を防ぐために、ヴァーチューズに取り組んでいます。しかし、様々な壁があるそうです。外から入ってきた教育への抵抗、物質的豊かさ以外のものへの関心の低さ、資金的な問題、それに、政府の管理体制。

現在4人のスタッフがパートでフル回転しますが、とても時間が足りないとのこと。特定の宗教ではないにも関わらず、政府の監視が強く、HPもブロックされているそうです。しかし、北京を中心に複数の小学校で取り組んできた結果、素晴らしい成果を生み出し、他の都市からも問い合わせが増えているそうです。教育現場では、確実に、その意義が理解されつつあるのだと感じました。

2枚目の写真は、中国の教材です。まずは、教材づくりから始めたそうです。「我的美徳日記」という、自分の美徳をつける日記もありました。小学校低学年向けにできていて、美徳の説明と塗り絵もできるような絵がついていました。

これから、中国、韓国、日本が手をとりあって、アジア共通の問題や先進的取り組みを情報交換しあって進んでいきましょう、と話し合いました。

  • カナダ報告6

国際会議は、先住民族の方々の音楽から始まりました。彼らのスピリットを尊重することから、ヴァーチューズは始まったのです。

さて、今日は、シティズンシップとヴァーチューについてです。

カナダのMcMaster大学の教授で、経営学、特に人的資源について研究しているR.H.先生とシティズンシップ教育についてお話をしました。ちょうど、最後のお別れ会の時に、お皿を持ってバイキングの列に並んでいた時で、話すチャンスをいただけて大変有難かったです。

帰国後、大学の学生向けの機関紙に執筆されたシティズンシップの記事を送ってくださいました。和訳したので、まず前半をご紹介します。

私の義理の父であるRay Pelletier は、現在78歳で、まことに私を驚かせます。彼は、トロントの慎み深い労働者階級の家に50年間も住み続けてきました。この間、この居住区に住む住民たちを尊敬し、賞賛してきました。

「パイプの水もれですか?」彼は、道具をもって、そこにいます。「重たい家具を移動させたいのですか?問題ありません。私も運ぶ人数に入れてください。」冬には、自分は除雪機を持っている唯一人の人間だからと言って、隣人の分まで除雪をします。夏には、「芝生を刈っていただけないでしょうか」と言われれば、対応します。彼ら(隣人たち)は、それらの仕事を自分でやるのは困難だから、と言います。これらの隣人は、70代半ばから80代後半になります。買い物や病院に行く際の送迎も引き受けています。

Rayは、これらの親切を私が覚えている限り、ずっとやってきました。これらの例は、ほんの一部にすぎません。Rayは、「よき市民」の縮図のような人です。彼にとって、これらは自然なことです。

~中略~

Rayのシティズンシップは、生まれつき、そして内面からもたらされているように見えます。他者を助けることを通して、これらの人間関係を作っていくことは、彼らしさの核心を表しています。ある人々にとっては、「よき市民」であることは、生まれつきのものかもしれませんが、その他の多くの人々にとっては、意識的な努力が必要です。

最近の研究によれば、「よき市民」であるために、以下の5つの要素があげられます。

  • 利他主義:他者のニーズを支援します。
  • 公正:個人の利益よりも、共通の利益を大切にする。
  • 礼儀:他者に対して親切で尊敬をもって接する。
  • 約束:コミュニティをよくするために、不正や混乱に対して、声をあげ行動に移す。
  • 誠実:自分と他者の生活を豊かにするために、日々の障害物に対して辛抱強くあり、仕事、家庭、コミュニティに対して自分の責務を果たす。

Rayさんの物語を拝見して、これまで社協や高齢者の方々と取り組んできたボランティア講座や生きがいづくりのワークショップが、とても意味深いことだったと改めて感じています。

  • カナダ報告7

今日は、セレモニーについて書きたいと思います。毎朝、会議を始める前に、全員が日差しのあふれるホールに集まって、セレモニーを行いました。

まず、100人を超える全員が輪になって、一人一人自己紹介。国と名前、そして、自分がこの会議に持ってきた美徳、期待したい美徳などを一言で話します。私は、何を言おうか、もうすぐ順番だ、とドキドキしましたが、正直に言いました。「私が持ってきた美徳は、”勇気”。一人一人すべての方とコミュニケーションする勇気です。」

なぜか、ウケて笑われました。きっと、欲張りだと思われたのでしょう。しかし、全ての方とコミュニケーションできたらと真剣に思いました。様々な職種、それぞれの専門領域、いろいろな社会背景、そして苦労話や成功談。。。。しかし、あっという間の4日間で、交流できたのは、一部の方々でした。それでも、心に残るエピソードの数々でした。

さて、セレモニーに話を戻します。最後の日の朝は、カナダ以外の国から集まった女性たちによる自主企画でした。フランスから参加した女性が、リーダーシップを発揮して、事前ミーティングで企画をまとめてくれました。

手をつないで輪になって、いろんな感情を声に出して表します。例えば、悲嘆、怒り、落胆、、、、。その後、美徳の言葉をひとつずつ言って、それにあわせてまた声を出します。例えば、喜び、愛、自信、、、、。そのハーモニーがうずをまくようにホールに響きわたりました。

セレモニーというと大げさですが、気持ちをひとつにするために、とても大切な時間だと実感しました。

  • カナダ報告8

一人一枚、自国から持ってきた布に、好きな美徳の言葉を書いて、旗をつくりました。

今日は、サイパンから参加していた女性のことを書きたいと思います。彼女とは、最後の晩の食事会で同じテーブルになりました。

昔、日本軍が、サイパンでご迷惑をおかけしたことをお詫びし、日本人の遺族が、遺骨を拾いに行くツアーがあることなどをお話したら、彼女の住まいは、日本兵の遺骨の多い地区に比較的近いそうで、骨を拾って冥福を祈ってくださっているとのこと。日本兵の骨です。恐縮と感謝の気持ちで胸が一杯になりました。

そして、すべての人類が戦争の犠牲者であり、人種は関係がないこと、亡くなった人への慰霊は、国境も人種も、敵味方の立場をも超えることを感じました。魂によりそう、そのあり方が、まさに、ヴァーチューズの「スピリットの尊重」そのもののような気がしました。

彼女の席と私の席との間には、オーストラリアから参加されたお二人が座っておられ、私たちの会話をだまってうなづきながら聞いていて下さったことにも感動しました。

翌日、彼女と海沿いの道を10分あまり一緒に歩きました。彼女は、厚生省に勤務した後、退職されて、今は、小学校で、肥満対策の指導を行っているそうです。アメリカの影響大きく、ファーストフードが浸透し、子どもたちの肥満は深刻だそうです。そこで、ヴァーチューズ・プロジェクトのスキルを活用しているのだろうと想像できました。

食生活の改善には、自制心、識別、節度、忍耐、辛抱強さ、自分のからだへの感謝などが相応しいでしょうし、やると決めたらやり通すコミットメントも、重要な要素だと思います。ヴァーチューズ・プロジェクトは、こうして、いろいろな分野で実践されています。

2枚目の写真は、スタッフの方々が飾って下さったみんなの手づくりの旗です。

  • カナダ報告9

20周年記念国際会議が終了した翌日、私たちは、ブッチャートガーデンを訪れました。

カナダ・ビクトリアにある、ブッチャートガーデンは、1904年、セメント製生業をしていたブッチャート家のジェニー夫人が、石灰岩の採掘場であったこの地に、庭園を造り始めたのがきっかけで誕生し、2004年で、ちょうど100周年を迎えました。現在は、130エーカーもの広大な敷地になり、世界中から訪れる人々を魅了しています。

石灰岩を採掘した跡の荒廃した土地を人々の心を癒す美しい空間に蘇らせようとした、その精神は、荒廃した人々の心、社会を本来の姿に蘇らせようとするヴァーチューズ・プロジェクトの精神に重なり、国際会議の行程を終了して訪れた私たちの心を癒し、大きな勇気を与えてくれるものでした。

岩場の奥にデザインされた見事な噴水は、時には天使の羽になり、バレリーナになり、白馬になったりして、美しい造形美を見せてくれました。言葉を忘れ、時が経つのも忘れ、そこにずっと足をとめていたのでした。