「自立した市民を育てるフィンランド教育の魅力とは?」シティズンシップ教育研究調査の記録 |
フィンランドは、OECD(経済協力開発機構)が実施した総合的な学力を測る学習到達度調査PISAで、2003年に国際学力世界一になって以来、注目されてきました。
フィンランドが、どうして世界一になれるのか?いろいろな文献が出ていますが、現地での見聞をもとにレポートします。
この写真は、12~13歳の英語の授業。少人数で私服。先生が、教科書を見せて説明して下さいました。世界地理や歴史などが一緒になった教科横断型の内容で、英語を勉強しながら、アフリカの飢餓問題やオーストラリアのアボリジニー文化のことが学べるようになっていました。後日、ヘルシンキで教科書専門店に行きましたが、生物と世界地理が一緒になった教科書などもあり、充実していました。小学4年生から英語を勉強し、中学では第2外国語もスタートします。教育委員会の話では、早期に多言語を学ぶのはとてもよい、ひとつの概念を複数の言語で理解することで、よりその概念が深くなっていく、とのことでした。
教師になるには大学院を修了する必要があること、授業が終われば帰宅(午後4時)できるので自己研鑽や休養に時間がとりやすいこともうかがいました。
森と湖の国フィンランド。極寒の長い冬。厳しい自然の中で生き抜いていくには、一人一人が自分の力で人生を切り開いていく必要があり、自分の力で考え、判断し、行動していける教育が必要とのこと。教師は、「教える」のではなく、子どもたちの自立的な力を「育む」ためにあるという教育理念に共感しました。
人口約20万のタンペレ市に6日間滞在しました。このまちの中央には、写真のような川が脈々と流れており、市民生活にやすらぎをもたらしています。
この川は2つの湖をつなぐもので、その高低差を利用して水力発電を行い、市民生活のエネルギーを生み出しています。写真の滝のようになっているところに水力発電施設があります。さらに、その施設の中には、子ども達や市民が環境のことを学べるエコロジーセンターMOREENIAがあります。
このMOREENIAを知ったきっかけは、フィンランドが重視している就学前教育(プレスクール)を訪問したとき、校外学習として、エコロジーを勉強するために、まちの施設に出かけるという話を伺ったからでした。自然環境から都市環境、生活環境、住環境まで幅広く学べるように工夫された展示物の数々に感動しました。しかも、プレスクールの段階で学んでいるのです。シティズンシップ教育を目的に訪問した私たちにとって、大きな収穫の1つとなりました。
フィンランドは、子育てしやすい国と聞きました。保健センター、保育園、小・中学校と幅広い現場を訪問させていただきましたが、妊娠してから、出産、保育園、プレスクール、小・中学校まで安心して子どもを産み育てられる環境が一貫して整っているとのこと。妊娠後、保育園と同じ敷地内にある保健センターで悩みや不安を相談することができ(予約制)、出産時に市からプレゼントされる、とてもかわいいベビー用品セット(約5万円とのこと)の人気も高く、保育園も安心して入ることができます。
夕方早くから、お父さんがベビーカーを押して広場でゆっくり時を過ごしたりしています。午後4時には仕事が終わるそうです。
これは、テンペリアウキオ教会。できる限り岩を自然なまま残そうという主旨で設計されました。ティモ&トモオ・スオマライネン兄弟がコンペで勝利し、1969年に完成。天井の周囲を円形に切り取ったガラス窓からの光線が、むき出しの荒い岩肌をやわらかく照らし出し、自然のふところに抱かれたように落ち着ける場所。日曜日の朝の礼拝に参加することができました。
ジャズ系のピアニスト、ギター、二人の若い女性によるボーカルというコンサート形式で始まった日曜礼拝。牧師さん自らソリストで、素晴らしい歌声。音響効果の優れた空間の中で、ピアノやパイプオルガン、そしてステキな歌声に、旅の疲れがずいぶんと癒されました。日曜礼拝がコンサートだとは驚きでした。
プログラムを見ると、毎日のようにコンサートが開催されているようで、こうしてみんなで素晴らしい音楽をともに味わうために設計されたんだねと話しながら、教会を後にしました。
左側の絵は、小学3年生のクラスに貼ってありました。ピエロでしょうか、自画像でしょうか。緻密に描かれた芸術的な絵が廊下や教室、いろいろなところに貼ってありました。ひとつひとつの表情を見ていると、どんな気持ちでこの絵を描いたのか質問してみたくなります。
タンペレ大学教育学部のT.A.教授に、フィンランドの教育制度や教員養成のしくみについて講義をしていただきました。様々な教科がある中で、芸術分野を大変重視しているということ。芸術には、美術や工芸などのアートの他、技術・家庭なども入るようでした。日々の暮らしを豊かにする技や感性を身につけることを大切にしていることを感じました。
プレスクールでは、音楽のクラスを見せていただきましたが、シュタイナー教育を実践している北海道のひびきの村を訪問した時のことを思い出す素敵な雰囲気でした。イースターの詩にあわせて演技をしたり歌ったりしていましたが、その静かな雰囲気は、詩そのものをとても大切にしている感じがしました。何でも元気よく歌えばよいというものではないことを感じさせてくれました。
ヘルシンキの中心街を走るトラム。まちの公共交通のシンボル。
横断歩道の左側に、自転車専用レーンがあります。ヘルシンキ市の都市計画図を見ると、自転車専用レーンがきめ細かくはりめぐらされていることがわかります。この石畳では、自転車もベビーカーも車椅子も、あまり心地よく通行できるような気はしませんが、車のスピードは抑えられるように感じます。美しい街並みを生かしつつ、公共交通や自転車交通を進めています。
フィンランドの学校では、集団生活の意義をどう位置づけているのでしょうか。
低学年の国語と算数の時間は、特に少人数制をとっているため、早出と遅出に分かれて授業を受けるそうです。例えば20人のクラスでは、10人ずつに分かれて、朝早く行き早く帰るグループと、遅く行って遅く帰るグループに分かれます。皆で行う朝の会や終わりの会、全校生徒が一緒に行う清掃の時間などはないそうです。給食は、決められた時間の範囲でいつ食べてもよいそうで、好きな時にランチルームに行って、食べられる分だけをよそって自由に食べています。先生も一緒です。運動会や文化祭、部活動など、集団で取り組む時間がほとんどないようでした。日本で重視される集団の秩序、規律、相互扶助等についての考え方が異なるようでした。
ところで、個人の自由と自立には、責任や社会的ルール、マナー、社会への参加意識などを学ぶことが重要です。タンペレ大学教育学部のT.A.教授からは、教育学だけでなく、社会学や政治学に重点を置いて教員養成に取り組んでいるという話を伺いました。そして、学校教育を通して民主主義を重視しているとのことでした。また、教員養成課程において学生が議論することを重視するが、答えは1つではなく、必ずオールタナティブがあるということを意識して、話し合うとのこと。そうしなければ、教育現場が官僚主義になってしまうとのことでした。
出発前の過労がたたり、フィンランドで風邪によりダウン。おかげで病院での診察を経験することができました。のどが大変痛く、真っ赤だと言われましたが、血液検査の結果、抗生物質は必要ないと言われました。日本では、簡単に抗生物質が処方されるように感じます。フィンランドでは医療費削減のため、まず検査をして、必要な人にだけ最低限の薬を出すという方針とのこと。
マーケット広場での新鮮なサーモン。生や燻製など、いろいろな形で売られていました。その土地でとれるものを見ると、元気が出ます。
暗くて長い冬もようやく終わり、フィンランドにも春の訪れを感じさせる様子がまちのあちこちで感じられました。
イースターも近く、きれいにデコレーションされた卵やひよこの人形たちが売られていました。フレッシュな黄色い水仙が、マーケット広場や花屋さんにぎっしり並んでいましたし、あちこちのホテルの玄関に、水仙の花が植えられていました。ほとんど日のあたらない長い冬を終えて春を迎えるフィンランドの人々の気持ちは、どんなにか喜びに満ち溢れたものでしょう。北陸に住む者として、とても共感できます。
この写真は、ヘルシンキの港のマーケット広場で売られていた猫柳。下の段にあるのは、サウナに入るときに使う白樺の葉っぱですね。ヴィヒタという、白樺の若い枝を束ねたもので、からだをたたいて、発汗効果を促すとともに、マッサージ効果も得るというものです。
サウナは、フィンランドが発祥の地。芯まで冷え切ったからだをサウナでしっかり温めます。湖のほとりの別荘に滞在し、サウナでほてったからだを湖に飛び込んで冷やすことで新陳代謝を促します。自律神経を整えるのにも抜群の効果があるようです。しかし、冬、凍った湖に飛び込んで泳ぐ人もいることには驚きます。日本でも、真冬の寒風の中、水を浴びたり、海に入ったりする行事もありますが、フィンランドの場合は、どのような目的でしょうか。
タンペレ市の都市環境センターMOREENIAの展示のひとつです。MOREENIAはタンペレ市の環境保護、廃棄物処理、上下水道、エネルギー供給、交通などの部門が総合的に協力して2003年に誕生した施設です。展示内容は、自然環境から都市環境まで。ゴミ問題からエネルギー問題、地球温暖化や気候変動、まちの中での人間と生き物との共生など、とても幅広く私たちの暮らしや生活環境を捉えています。さらに、「癒しと健康的な暮らし」やフィンランドが誇る「サウナの文化」についての展示もあり、奥が深いです。
左側の写真は、照明器具の種類と熱効率、省エネ率、どれが眼にやさしいかなどについての展示です。プレスクール(年齢的には幼稚園の年長)から、このような施設で学べるとは素晴らしいですね。右側の写真のテーマは、地球温暖化です。
ところで、フィンランドで家庭教育はどのように位置づけられているのでしょうか。
タンペレ市立図書館で、子どものための環境教育や生活教育のテキストや絵本を探していたところ、司書の方が魅力的な副読本を紹介してくださいました。身近な生活を通して環境問題や暮らしについて学べる内容で、私たちが研究しているシティズンシップと住教育にぴったりの内容でした。
そこで本屋へ行き、同じものを尋ねたのですが、それは家庭教育のために学校で無料配布されるものとのことでした。非売品です。家庭用にも優れた副読本があることを実感しました。小さい頃から、こうして家庭と学校の両方で自分たちの環境や暮らしについて学んでいくわけですね。
タンペレ市の議場です。すっきりデザインされたイスが並び、前方からは、全面に広がる大きなガラス窓を通して日差しが注ぎ込み、明るい空間となっています。ある方がこの写真を見て、「日本のように仰々しくない。フィンランドでは、きっと若手議員もどんどん活躍できて回転も速いのではないか、このイスは若手向きだね」などと冗談を言っていました。市役所のロビー、トイレ、コートをかけるコーナーなどいずれも洗練されたデザインでした。ここでどのような議論がなされているのか、議員さんたちはどんな顔ぶれなのか、市役所の答弁はどのように行なわれているのか拝見したいと感じました。
市役所では、教育委員会の教育計画担当者から話を伺う機会をいただきました。「読み書きそろばん」について、「昔、生徒は空っぽの皿で、そこに教師が知識を詰め込むことをしていた。今は、それはしない。勉強の大きな目標は、読み書きそろばんではない。九九を早く言う必要はない」とのことでした。
フィンランドでは、「教師」という職業は、とても人気が高いそうです。タンペレ大学教育学部のT.A.教授に話を聞きました。
給料が特別高い職業ではないにもかかわらず、教育学部の60人枠に1600人が受験するそうです。そして、教師になるためには、修士課程まで修了します。教師は、「自由に教育できる」という考えが昔からあり、それが教師という職業の魅力のひとつになっているそうです。教師が辛くて辞職する人は1%程度とか。
「教師は、自分の個性を生かして就く職業であり、教室の王様である。1994年に”教える”ことから子どもが主体的に”学ぶ”ことへと教育改革が行われたが、この基本路線は変わっていない」「一つの考え方が必ずしも通用するものではないことを教える。柔軟に考えて、自分で解決する方法を見つけられる力を養う。一つの問題に解決方法は一つではない」という話が大変印象的でした。
この写真は、小学3年生の算数のクラスです。子どもたちが次々と前に出てきて楽しそうに先生役をしていました。
ところで、一般的にフィンランドでは残業をほとんどしないようです。教師も同じで、午後4時頃には仕事を終えてフリーになります。先生にゆとりがあれば、自然と子どもたちにもゆとりが生まれます。日本の学校の先生方は多忙でゆとりが少ないことが指摘されています。フィンランドに比べ日本では教師の勤務時間に占める授業時間が少ない。授業以外の様々な仕事(会議、研修、教材研究、生活指導、PTA、その他)がとても多いことが推察されます。
先日、PTA役員として先生方と話をしました。教育現場は本当に忙しく、心身ともにとても大変な様子を実感しました。
「ゆとり教育」からの方針転換で、43年ぶりに全国統一学力テストが行われます。大きな国家予算を投じて行う学力テスト。教育現場では、その対応も求められていくことと思います。
日本では家庭や地域の教育力の低下が指摘されていますが、フィンランドでは、学校は教科を教えるところであり、それ以外は家庭が担います。家庭がゆとりをもって子どもと接することが重要なのでしょう。
フィンランド教育が注目を集めているのは、2003年にOECD主催で行われたPISAで世界一となったためです。
国際的に開発した15歳児を対象とする学習到達度テスト。2000年に最初の本調査を行い、以後3年ごとのサイクルで実施。読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーを主要3分野として調査。2000年調査では読解力、2003年調査では数学的リテラシー、2006年調査では科学的リテラシーが中心分野。2003年調査には、41か国・地域(OECD加盟30か国、非加盟11か国・地域)から約27万6,000人の15歳児が参加(ただし2003年は、イギリスの学校実施率が国際基準を満たしていなかったため、分析から除外)。なお、2000年は32か国(OECD加盟28か国、非加盟4か国)が参加。
知識の積み上げではなく、思考プロセスや様々な状況でそれを生かす力を重視するというPISA調査で世界一となったフィンランドの教育は、かつて、「生きる力を育てる」という名のもとに主体的学習を促そうとしたわが国のゆとり教育につながる理念を感じさせるものです。しかし、わが国では、ゆとり教育から方向転換。その行方はどうなるでしょうか。
この写真は、小学3年生の教科書です。問題集は個々の所有物ですが、教科書は、一年間使ったら次の学年に回して4~5年使うそうです。節約して、別の予算を充実するとのことでした。
PISAでフィンランドが一位になった背景には、読書量の多さが指摘されています。読解力は第1位で、日本に比べ高くなっています(日本14位)。
この写真は、タンペレ市立図書館。地下にはムーミン博物館があります。この図書館は、小中学校の目の前の緑地帯(ちょっとした森の公園)にあり、学校教育と密接な関係にあるとのことでした。学校図書室の予算が節約できます。学校帰りに利用する子どもたちが多い。学校が早く終わって、その後、部活や塾がなければ、家でゆっくり読書することもできます。国際的にみて、日本の子どもの読書離れが指摘されており、憂慮すべきことです。
北川達夫さんが編集されているフィンランドの国語の教科書を拝見すると、5つの基本的な力として、発想力・論理力・表現力・批判的思考力・コミュニケーション力があげられています。競争でもない、ゆとりでもない、詰め込みでもない、放任でもない、というフィンランドの教科書には、これら5つの視点が凝縮されているといいます。
2枚目の写真は、図書館のエントランスホール。クロークなども広々としていて、ゆったりと本を探すことができました。ここでは190人の職員が働いているそうです。
「自立した市民を育てるフィンランド教育の魅力」
競争しないのに学力世界一のフィンランド教育とは?「知識は覚えるためのものではなく、身近な生活課題や社会問題を解決するためにある」-そんなフィンランド教育の見聞レポートと日本の私たちが取り組むためのワークショップを下記の通り開催します。
フィンランド教育省は、学力世界一になった背景をいくつかあげていますが、その1つに、「社会構成主義的学習概念」があります。
知識には何らかの目的・価値観が前提になっている。知識とは、何らかの価値観にもとづいて何らかの目的を持った実践によって世界から切り取られ、構成されたものである。たとえば、世の中に様々な出来事が起きているが、環境問題という視点で事実を調べ、知識として整理すると、環境問題についての世の中が見えてくることになる。人権という視点で知識を蓄えることもあるだろう。知識は、中立のものでなく、ただ一つというわけでもなく、社会的な脈絡の中で作られるものだ。
「たいせつなのは 自分のしたいことが 自分でわかっていることだよ」-ムーミン谷の名言入りポストカードに書いてあった言葉です。
「人口は少ないし、自然は厳しいし、暗いし寒いし、刺激は少ないし、だから、自分のやりたいことややろうと思うことは、自分で克服して、自分自身で取り組んで対応していかないと、この国では、生きていけない」-これは、“なぜPISAで好成績だったのか”を探るために、高校生にインタビューしたときのお返事だそうです。(参照:福田誠治『競争しなくても世界一 フィンランドの教育』)
「フィンランドの生きる力が育まれた背景には、この寒い自然環境の影響が大である。”寒くなる”という現象一つをとっても、”気温が低くなる→湖が凍る→水が得られなくなる・魚がとれなくなる→食するものがなくなる→生命の危機”というように、一つの事柄を見たときにも、それから派生する様々な事柄を常に結びつけて考えなければならない」(フィンランド大学教育学部教師養成学科長マッティ・メリ教授 参照:同上)
この写真は、タンペレ市の高台の展望塔から市街地を見渡したところ。3月終わりですが、湖面にはまだうっすらと氷がはっていました。森と湖の国フィンランドらしい写真です。寒くて長い厳しい冬を経て、春を迎える瞬間ですね。市街地が左の遠くに見えます。
ヘルシンキを舞台とした映画、『かもめ食堂』
初日となった2006年3月11日(土)、銀座では、朝4時から並んだ人もいて長蛇の列、立ち見も多数いたとか。この映画の何が、日本人をこんなにも魅了したのでしょう。
小林聡美さん(サチエ)、片桐はいりさん(ミドリ)、もたいまさこさん(マサコ)さんたちが演じるフィンランドのゆったりした時間の流れ・・・。
マサコは、空港から自分のスーツケースがずっと届かず、毎日問い合わせをしていた。サチエかミドリに、「大事なものが入っていたでしょうに」と言われて、「大事なもの・・・?」とマサコは考え込んだ。そして、あきらめて帰国する決心をしたところにやっと届いたスーツケース。ホテルの部屋で開けてみると、、、、そこには、ぎっしりと詰まったフィンランドの森のきのこ。そのきのこを見つめ、マサコはまたつぶやく、「大事なもの・・・・!」
このきのこに象徴される、フィンランド人が愛する森の文化、ゆったりした時間の流れ。この場面は何度見ても味わい深いです。
この写真は、ヘルシンキのかもめ食堂の舞台となったお店。、トラムに乗って、やっとたどり着いたところ、残念ながら、この日はお休みでした。シナモンロールとコーヒーを楽しみにしていたのですが!
教育委員会を訪問した際に、不登校に関する話題になりました。
基礎教育学校経営部長代理で教育計画担当のV.M.氏によれば、学校に来ない子はいるそうです。それは、学校が嫌いということではなく、別の事情があるようです(たとえば、家庭の問題)。
学校では、心が痛んでいる子どもの症状と数を常に把握し、親とカウンセラーとが協力して解決に努めています。不登校は、基礎学校(小中学校)の後の問題に影響するため、小中9年間のあと10年目のクラスを設けています。10年目のクラスは、学校で勉強するだけでなく、職場や教会、職業訓練校などで勉強できるようにしてあり、社会に出て生きていくための力を身につけられるような環境をつくっているそうです。
福田誠治『競争しなくても世界一 フィンランドの教育』によれば、ニーズのある子どもがいる場合、校長、副校長、カウンセラー、ソーシャルワーカー、学校看護士、特別補助教師からなる6人の「福祉チーム」が組織され、情報を集めて、対策を立てるそうです。問題が起きた際には、大きくなる前に早期介入することが原則。担任教師に任せるのではなく、チーム制でしっかりと対策を施していく。学校現場に関わる人材の豊富さと対策の確実さを実感しました。
「福祉としての教育の最終目的は、子ども・青年に自立を促すことで、家庭に問題がある場合でも、生徒が自分自身と周囲の状況を把握することができる積極的な行動者に発達すること」(福田誠治 同著)。
フィンランド教育は一人一人の自立を育むために、大きな努力を続けているのだと思いました。
写真は、フィンランドの夕空(雲の上から)
アンケート実施:(財)労働科学研究所
出典:教育関係団体連絡会「子どもの応援便り 2006冬号」
「国民のロウソク」と言われ、深く信頼されているフィンランドの教師は、午後4時には仕事が終わり、休養や自己研鑽に時間を使うことができるそうで、それに比べ、日本の教育現場は大変な労働環境にあることが予想されます。中学校では、放課後の部活で夜7時近くまで指導が続き、週末や夏休みも部活練習や遠征があります。
フィンランドでは、放課後活動は、教師とは別の専門インストラクターが来て指導してくれるそうで、芸術やスポーツなどそれぞれの専門家が担当します。生徒は、その活動に参加してもしなくてもどちらでも自由であり、専門のインストラクターに指導してもらえるため、学校区を超えて生徒が集まるそうです。
午後4時と7時では、単純に考えて3時間の差。日本の教師は、全労働時間に占める授業時間がフィンランドよりも大変少ないということですから、いかに、授業以外の時間(会議、部活、生活指導、その他・・・)が多いかがわかります。日本は長時間労働者比率が世界一(2000年)、つまり、残業世界一。そして、自殺率は、欧米先進国などと比較しても大変高くなっています。2006年度、うつ病などで労災認定を受けた人が前年度の1.6倍と急増し、過労自殺も過去最多となっています。
ゆとりのない国ニッポン、そして、ゆとりの少ない教育現場にいる子どもたちの未来は、どうなっていくのでしょう。
ユニセフが2007年に実施した15歳の子どもたちのアンケートで、「幸せだ」と実感している子どもが多いのは、一位がオランダ、ついで、北欧諸国。最下位はアメリカ、ついでイギリスだったそうです。(日本は、すべての項目がそろっていないためランク外)。日本がランキングに入っているものとしては、「孤独を感じる」という項目がOECD25ヶ国のうちダントツで29.8%。2位のアイスランド10%を大きく上回っています(全体平均7%)。日本の子どもは、3人に1人が孤独を感じていることになります。また、自分のことを「やっかい者、場違い」と感じている項目も世界一だそうです。
一方、警察庁が7日公表した自殺まとめでは、小中学生の自殺が増えていることを指摘しており、小学生は前年の2倍、中学生も22.7%増でした。学生・生徒の自殺は、統計をとりはじめた1978年以降過去最悪の886人ということです。
国際学力世界一のフィンランドは、なぜ、幸せ度も上位にあるのでしょうか。
日本では、集団での行動が重視され、思春期のこの時期は、子どもどうしグループをつくり、いかにそのグループに所属するか、仲間はずれにならないか、神経をすりへらしている現状を感じます。
フィンランドでは、集団よりも個人が重視されますので、個々人が自分の個性を尊重し、自立し、自己責任のもとで行動できるように教育されます。そのため、集団からはずれることで孤独感を感じたり、場違いだとか、やっかい者だと思う必要がないのではないかと推察します。
集団での規律や秩序を重んじる教育は大切ですが、みんなと一緒でないと安心できない、一人だけ特異な行動をしていると違和感があるといった風潮があるとすれば問題です。日本社会そのものにも通じるものでしょう。出る杭は打たれる、企業の歯車として働くことが美徳といった価値観がある限り、子どもたちは、なかなか夢をもって将来の自己実現を考えづらいのではないかと感じます。